果たせなかった夢・・・旧国鉄阪本線(五新線) 城戸駅
(平成16年3月6日撮影)(平成17年10月3日掲載,平成27年5月4日更新)
明治時代にはすでに計画され、昭和初期に工事が開始されたものの、結局、鉄道として開通することのなかった阪本線(五新線)
その、なれの果てと言えるバス専用道の終点、城戸(駅)と、バスすら走らなかったその先のトンネル手前まで行ってみました。
阪本線・・・城戸から先
バス専用道の中には、線名の由来となった「阪本」駅はありません。・・・阪本駅は、城戸駅のもっと先に計画されていました。
国鉄阪本線(五新線) 予定路線 (阪本〜新宮は、主な経由地※) | ||||||||||||||||||||||||||
五 条 |
==== | 野 原 |
== | == | 賀 名 生 |
==== | 城 戸 |
==== | 立 川 渡 |
== | == | 阪 本 |
= | = | 上 野 地 |
= | 風 屋 |
= | 折 立 |
= | === | 本 宮 |
=== | =========== | == | 新 宮 |
バス運行(平成26年9月30日廃止) | 工事中断 | 調査線 | ||||||||||||||||||||||||
奈良県 | 和歌山県 | |||||||||||||||||||||||||
五條市 | 西吉野村 | 大塔村 | 十津川村 | 本宮町 | 熊野川町 | 新宮市 | ||||||||||||||||||||
※ 五条〜阪本の駅および阪本〜新宮の経由地は「鉄道未成線を歩く(国鉄編)」(JTBキャンブックス)による また、所在する市町村は「高等日本地図」(人文社:昭和56年)を参考。 2005年5月1日より、本宮町は合併により、田辺市になる。 2005年9月25日より、西吉野村・大塔村は合併により、五條市となる。 2005年10月1日より、熊野川町は合併により、新宮市となる。 |
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「鉄道未成線を歩く(国鉄編)」(以下、「未成線を歩く」)によると、城戸〜阪本の工事が始まったのは、1967年(昭和42年)。 五条〜城戸の専用道経由バスの運転開始から2年たってからのことでした。阪本線のうち、城戸〜阪本が後回しとなったのは、城戸から先はほとんどがトンネルで(写真があるように城戸駅のすぐ南に「城戸トンネル」(760m)がある)、特に立川渡〜阪本は、長大トンネルが必要なためであると思われます。なお、野原〜賀名生にも「生子トンネル」(832m)があり、最初の着工区間は、その手前までの、五条〜生子だったようです。
私自身は現地には行っていませんが、「未成線を歩く」によると、城戸〜阪本は、約70%が完成しているようです。この、「未成線を歩く」、お手軽に地図を閲覧することができる「Yahoo!地図情報」(以下、「Yahoo地図」)、そして、インターネット上で得られた阪本線および国道168号線等の情報をもとに、以下にまとめてみました。ただし、すべての情報が一致していたわけではないため、以下の記述は、必ずしも正確とは言えません。正確な情報をお持ちの方、連絡くだされば幸いです。
(城戸駅〜宗川橋梁)
城戸駅から先は、写真にある「第9丹生橋梁(90m)」「城戸トンネル」、さらに「坂巻トンネル(865m)」「八坂トンネル(218m)」「宗川橋梁(149m)」「西野トンネル(572m,未完成?)」と続きます。Yahoo地図にも宗川橋梁までは記載されていて、それを見る限りでは、国道168号と大雑把に併走していますが、地上に顔を出す区間はほとんど無いようです。そして八坂トンネルの出口は、宗川橋梁となり、宗川と国道168号をまたいでいます。おもしろいことに、国道168号は宗川を渡る付近でΩ(オメガ)型になっていて、阪本線宗川橋梁1つで国道168号を2回またいでいます。この宗川橋梁の渡り終わりが、西野トンネルの入り口となっています。
国道を走っていて、否応なしに視界に飛び込んでくる、この宗川橋梁は、阪本線の中で、最も存在を主張している建造物であると思います。余談ですが、宗川橋梁は、1996年に塗装しなおされたそうです。もしかすると、宗川橋梁は、国道沿いのランドマーク(オブジェ?)として、存在価値を見いだしたのかもしれません。(後日追記:橋梁には何らかの配管が設置されています。橋の規模と比較して不釣り合いな配管ではありますが、この配管を支える橋梁として維持されている可能性が高いです。)
(宗川橋梁〜立川渡駅)
大雑把に国道168号線に沿ってきた阪本線ですが、阪本線宗川橋梁は南を向いているのに、現在の国道は宗川野橋を渡って西へ進路を変えてしまいます。また、阪本線宗川橋梁の向きから考えて、そのまま南下しそうですが、Yahoo地図からは、その先の記載がありません。つまり、阪本線西野トンネルは、地図から消えており、結局、完成しなかったものと思われます(※1)(後日注:「「Kai-chanの鉄道旅情写真館」管理人」様より、完成している旨の情報をいただきました。情報ありがとうございます)。地図に記載は無いものの、宗川橋梁からそのまま南に延ばすと、立川渡地区に到達します。西野トンネルを出たあと、この立川渡に駅が作られる予定でしたが、この付近の工事は、なされていないようです。なお、国道で阪本線宗川橋梁を1度目にくぐったあと、右折(宗川を渡る)せずに直進(左折?)すると立川渡に向かうことができます。この道は、旧の国道168号で、現在は県道になっています。また、県道は立川渡からも直進しますが、旧国道は立川渡で右に折れ、狭路となって山中に入っていきます。
(立川渡駅〜阪本駅)
立川渡駅から先は、トンネルは2つしか有りません・・・・といっても、1本あたりが長く、「立川渡トンネル(2140m)」「天辻トンネル(5040m)」という2つの長大トンネルを抜け、阪本地区に入ります(ちゃんと完成していれば、橋梁がいくつか追加されたと思います)。立川渡トンネルは、ループ線トンネルで計画されていましたが、結局、着工すらされなかったようです。しかし、天辻トンネルは1972年(昭和47年)に完成しているようです・・・なんと城戸トンネル工事開始より早い・・・。この、天辻トンネルの立川渡側の入り口は、旧国道で山に入り、急勾配を登って清々大滝(立川渡大滝)を少し過ぎたあたりで、谷の向こうに見えるそうです(自然と一体化していて、非常にわかりにくいそうです)。なお、旧国道は、そのまま山越えをすると現国道の西野トンネル(阪本線のそれと同じ名前であるが全くの別物)の阪本側出口辺りに出てきます。
天辻トンネルの阪本側出口は、国道168号線の大塔橋の少し手前、国道脇にあるようです。「未成線を歩く」等の写真で見ると、柵さえなければ、そのまま自動車で突っ込んでしまいそうな場所です。天辻トンネルは、立川渡付近の山中からここまで、ほぼ直線に貫いているそうです。このトンネルが、なんらかの交通で供用されていれば、相当な時間短縮になっていたと思われます。実際に、天辻トンネル竣工後に、バス運行(国鉄バス阪本線の延長)の請願が出されていたそうです。しかし、実際は見ての通り・・・「未成線を歩く」にも書いてあったことですが、5kmの単線鉄道トンネルでのバス運行は、排ガス処理に問題が有ったことでしょう。
無用の長物に成りかかっていた天辻トンネルですが、現在は、大阪大学の研究施設「大塔コスモ観測所」として使用されています(※2)。これは、交通機関としての使用が完全に不可となったことを表します。しかし、明確な利用方法が見つかった・・・しかも、天辻トンネルだから可能であった・・・ということは、天辻トンネルにとって、非常に喜ばしいことだろ思います。なお、大塔コスモ観測所に関するサイトで、現在の天辻トンネル内部の概略図が描かれていたページがありました。
なお、「天辻トンネル」から先、阪本駅までの間については、立川渡付近と同じく、工事はされていないようです。
(阪本駅〜新宮)
阪本駅から先は、まだ、「調査線」の段階であり、厳密な経由地は、全く決まっていませんでした。しかし、もし鉄道を通すならば、ある程度、集落を通さなければ意味がないため、路線は、大雑把に国道168号に沿ったかたちで計画されたと思われます。もちろん、建造物は皆無と思われます。
阪本線(五新線)が通る予定であった場所を、国道168号に沿って記述してきましたが、この、国道168号も未整備な部分(離合困難な狭路など)が存在し、立川渡付近のように大幅なルート変更があるかもしれません。
また、阪本線(五新線)について調べる上で、国道168号を走破した人のレポートが意外と参考になることがあります。とにかく、阪本線(五新線)と国道168号は、切っても切れない縁のようです。ただ、一方は、今後、徐々に朽ち果ててしまう運命、もう一方は、これからも整備されていく予定ではありますが・・・。
※1:「鉄道未成線を歩く(国鉄編)」2002年6月初版118頁中段には、「79年8月に城戸トンネル、続いて西野トンネルも竣工し・・・」となっているが、それと矛盾するように、下段に「79年夏、・・・予算配分が凍結・・・繰越金で西野トンネルの掘削も進むが、80年12月で終了。」となっている。城戸トンネルについては、上記写真の銘板から「しゅん功:昭和54年8月10日」と判明しており、これを踏まえた上で、文章の整合性を取るなら、中段の文章は「・・・城戸トンネルが竣功し、次いで西野トンネルも着工され・・・」であろう。なお、当文献において、他の完成したトンネルについては「完成」「貫通」「竣工」という語句が使われているのに対し、阪本線西野トンネルだけは「終了」という語句が使用されている。また、阪本線西野トンネルの立川渡側の出口について、インターネット上で先人のレポートが見あたらないこと。このようなことから、阪本線西野トンネルは未完成である。と私は判断した。実際には、もっと調査した上で判断する必要がある。正確な情報をお待ちしております。(後日注:本文中に追記したように、「「Kai-chanの鉄道旅情写真館」管理人」様より西野トンネルの出口
※後日注:「「Kai-chanの鉄道旅情写真館」管理人」様より、西野トンネルの阪本側出口について、写真を掲載しているサイトの紹介がありました。情報ありがとうございました。また、平成26年10月に情報をいただいていながら、更新まで7ヶ月も経ってしまったことをお詫びします。なお、紹介のあったサイトについては、リンク申請が未だのため、名称のみ掲載します:「廃線鉄道寮」「幻の鉄道 五新鉄道を行く!!」
また、ワタシ自身も、この後何回か、阪本線探索に行っており、さらに、西野トンネルの阪本側出口の撮影に成功したことから、整理ができ次第、紹介する予定です。
※2:トンネルという、深い地中で、宇宙関連の観測所というのも変な感じであるが、「ニュートリノ」という粒子は貫通性が高いため、観測が可能である。さらに、その他の雑多な宇宙線の多くは地面に吸収されてしまうため、ニュートリノのような特殊な粒子は、むしろ深い地中の方が観測に適している。 ノーベル賞を受賞した、「超新星爆発によって放出されたニュートリノの観測:小柴昌俊東京大学教授(当時)」の使用された観測設備「カミオカンデ」も神岡鉱山地下に建造(設置)されていた(現在は「スーパーカミオカンデ」に引き継がれている)。なお、大塔コスモ観測所は、神岡よりもラドン濃度が相対的に低く、他にあまり類を見ないくらい、ノイズの少ない観測が行えるそうである。なお、「ニュートリノ」とは何か、ということについては、解説が非常に難解になるため、ここではあえて説明しない。
「阪本線(五新線)バス専用道」,阪本線の現状(解説)はこちら
「阪本線(五新線)賀名生付近」,阪本線の沿線案内(解説)はこちら
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